幸福の設計

ジャック・ベッケル、1946。ありえないほどの高速な展開に驚かされる。それは物語の速度でもなければ台詞の速度でもない。とにかく画面は運動に満ちあふれ、せわしなくショットがカットされ、シーンの速度もすさまじく高速なのだ。史上最速映画といわれるハワード・ホークスの『ヒズ・ガール・フライデー』の速度は、物語の速度であり、なにより超高速な台詞の応酬が物語を加速させていた。比較するならば、物語が爆速な『ヒズ・ガール・フライデー』に対して、この映画は運動が爆速なのだ。やたらと忙しい映画であるのにもかかわらず、物語の速度は決して早いわけではない。物語は類似や反復を見せながら、むしろもったいぶるように語られる。そこは少し退屈する部分ではあった。しかし、動いていなければ死んでしまうかのような病的ともいえる運動の量と速度が画面に満ちあふれ、それが大胆な省略によってカットされると映画はさらに加速してゆく。その速度があるからこそ、宝くじ紛失による速度の変化が物語の緩急の変化として強力に作用する。そこではじめて男女の心情は明示されるのだが、それらが語られることはない。だが、女の見事な表情の演技にはしびれた。男と女の心情の差は興味深い。それが終盤の見事な展開を生んでいる。拳闘アクションがあり、謎解きゲームが解け、ハッピーエンドを迎える。ベッケルらしく、男、男、男で終わるのだ。この映画のダイナミックな高速展開は、感傷を排除するのにも有効に機能している。それは、当時のフランス映画へのアンチテーゼの意味もあったであろうし、また後のヌーヴェルヴァーグに与えた影響も計り知れないものがある。95点。