暗殺者の家

アルフレッド・ヒッチコック、1934。この映画は1956年にハリウッドでヒッチコック自身によりリメイクされている。そしてリメイクのほうが評判がいい。この映画はイギリス時代最大のヒット作となっている。犯罪映画であり死者も多数出るのだが、冒頭の毛糸の仕掛けが示すように、かなりユーモアが散りばめられている。主人公夫婦は娘を誘拐されているのだが、それでも夫レスリー・バンクスは友人共々かなりユーモアづけになる。教会では聖歌とサスペンスがユーモラスに混在し、バカ騒ぎはオルガンの音で打ち消そうとする。この映画では、クラシックコンサートでサスペンスが最高潮に達する。そのためクラシックが主に使われる映画音楽がこの映画にはない。見せ場はどう考えても終盤のコンサート会場と教会での銃撃戦だろう。そこからはユーモアも発生しない。コンサート会場の撮影が見事だ。それまで封印してきた音楽とともにサスペンスをこれでもかと煽りまくる。通常のショット、妻エドナ・ベスト、狙撃手、大臣を映すショット、そしてエドナ・ベストの主観ショットと、それに類似するショットが入り乱れ、主観ショットが意識朦朧とするなかに伸びてくる銃口。サスペンスは最高潮、そこに悲鳴と銃声、素晴らしい。その後、対称的に殺伐とした教会での長い銃撃戦。ここでオープニングからの長い前振りでまたもエドナ・ベスト。レスリー・バンクスは終盤出番が少なすぎた。そして悪の親玉にしてユーモアも牽引していたピーター・ローレは、ヒッチコック流に見せない銃殺で終わる。全体的にガタツキがあり、リメイクしたくなりそうな映画なのだが、それでも十分におもしろい。95点。