マイキー&ニッキー

エレイン・メイ、1976。カサヴェテスの監督作品だと勘違いして見た。実際この監督の作風は知らないが、この映画では相当にカサヴェテスへの敬意が払われている。ピーター・フォークジョン・カサヴェテスのふたり芝居といった趣の映画なのだが、カサヴェテス作品特有の広義のインプロビゼーションがここでも見られる。これは現代風にいえばマインドフルネス的映画ともいえるもので、映画は脚本か何かを再構築しているのではなく、いままさに生成されているのだという印象を与える。このスリリングな緊張感がカサヴェテス作品では終始ダレることなく貫かれることが多々ある。その点でこの映画は同じような手法を用いているのだが、緊張感はかなりダレてしまっている。そこには監督の力量の差は当然ある。しかし描こうとしている世界が、例えば同年のカサヴェテスの『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』などと比較すると物語的要素が薄い。一晩のおっさんのふたり芝居であり、描かれる物語はふたり芝居を引き立たせるものでしかない。そういった意味ではふたりの男のいびつな関係はよく描かれている。しかし、カサヴェテスのキャラクターがちょっと度を越しすぎているように感じられる。その先にコメディがあるのかサイコがあるのか人間の弱さが見えてくるのかよくわからない。典型的な脇役系のキャラクターが主人公になってしまうことにかなりの戸惑いがあった。できれば、あれはカサヴェテスのラストデートだったんだよ、なんて感想を持ちたかった。ふたり芝居の演出にもう少し工夫が見られ、なおかつ15分くらい尺を削れば、おもしろい映画になっていたと思う。90点。