荒武者キートン

バスター・キートン、ジャック・ブリストーン、1923。この映画はあらすじが素晴らしい。対立する両家の息子の帰郷が20年越しに反復される。モノローグで描かれる夜の豪雨と稲妻のシーンが後々まで有効に機能している。このモノローグがキートンをきっかけに反復されるのだが、キートンの帰郷は圧倒的な対照として描かれる。家を出たら殺されるというシチュエーションもまたおもしろい。キートンの帰郷におけるローテクな機関車シーンの数々、そこで繰り広げられるギャグの数々はキートンと無関係のものも多い。何故か石を投げる通行人や見物客の描写、凸凹道の極端さやトンネルの極端さ。機関車の旅自体抱腹絶倒ではないのだが、ずっと見ていたいと思わせるようなキュートな魅力が満載だった。そして家を出たら殺される状況に陥りながらもキートンは脱出する。そこからはキートンお得意の無茶なアクションが連発される。この映画は雨や川や滝といったように水が重要なモチーフになっている。偶然にも滝に隠れるキートンと手前に殺そうとするふたりというショットは奥行きを活かした映画的な演出だ。滝が溢れ出る瞬間のカット割はショットを逆回転させており、これもまた映画的なものだ。そしてやはりキートンのアクションである。毎度無茶をするのは承知なのだが、この映画のアクションの疲労度たるや尋常ではない。まるでドキュメンタリーでも見ているようだった。無茶なアクションに男や女が絡んでゆくのもおもしろい。ラストでふたたびモノローグのモチーフがあらわれて映画を決定づけている。キートンはギャグやアクションで反復される物語を大逆転してしまうのだ。95点。