ムーンライト

バリー・ジェンキンズ、2016。とてもピュアで繊細で寡黙な愛に関する物語。まるでヨーロッパの神学校を舞台にしたような厳格さがこの映画からは感じられる。実際音楽もクラシックがよく使われていたし、そもそも黒人映画なのに台詞がやたらと少ない。これは完全に確信犯として、非黒人映画的な要素を取り入れているのだと思う。魚喃キリコの世界観に通じる、と言ってもそれほど大げさじゃないと思う。その結果この作品の構造は、黒人映画という枠に収まらない外装と内装を持つに至っている。役者も演出も見事なもので、愛の不足ゆえの孤独や不安というものを、語りではなく行動で示していた。時折見せるトリッキーな撮影も抑制が効いていてよかった。最後は魚喃キリコの『BLUE』よろしく、男の自宅ではなく、すぐそこに見えた海に行ってほしかったなあ。95点。