デッドマン

ジム・ジャームッシュ、1995。この映画は古き良き西部劇に影響を受けたというよりも、古き良きサイレント映画に影響を受けているように見える。まずロビー・ミューラーの仕事っぷりが凄まじいのだが、被写界深度をものすごく狭くして撮影する部分が多々ある。これはサイレント期にはそうせざるを得ずにそうしたのだが、このロビー・ミューラーの撮影にはその時代へのオマージュが捧げられているように感じるのだ。馬を見ればノスフェラトゥを思い出し、船で河に浮かべばサンライズを思い出す。そういえば最初のほうの物撮りの構成はサンライズに近いような気もする。かといってロビー・ミューラーは当然、過去ばかり向いているわけではない。現代の視点で捉えられたモノクロの画面は、ジョニー・デップの前半と見事に呼応していたし、そもそもベースとしてあるのはトーキーの西部劇であることは言うまでもないのだが、この映画における生と死の描き方はとてもおもしろい。ジャームッシュにとっては文学的なお遊びのようなものなのかもしれないのだが、この生と死の描き方の詩情というのか曖昧さというものが、映画の魅力そのものになっている。ロビー・ミューラーに関しては、この映画を彼のベストと推す声も散見するが、ブルーレイで再見した限りでは『さすらい』にはかなわなかった。100点。