きみの鳥はうたえる
三宅唱、2018。この映画は佐藤泰志の原作なのだが、映画化すなわち傑作というのがまたも証明された。柄本佑、石橋静河、染谷将太による青春映画。寄りの画が非常に多くって、顔の映画になっている。3人のキャラクター造形が見事で、とりわけ柄本佑と石橋静河は素晴らしかった。表情をずっと見ていたかった。この青春の具合も素晴らしくてダメなんだけどどん詰まり感はないし、取り立てて大きな出来事があるわけでもないのに魅せてくれる。恋愛のドロドロ感の抑制も素晴らしい。3人の世界とそれ以外の世界のバランス描写も見事だ。映画の内容と映画の尺がちょうど行き詰まりそうになるところで展開が生まれ映画が終わるのもとても好感が持てた。あとは照明が素晴らしい。クラブのシーンがいい。95点。
恋は雨上がりのように
永井聡、2018。昨日見た『勝手にふるえてろ』は変化球バリバリ使っていた映画だけれど、この映画はかなりの直球勝負で、そこに物足りなさを感じた。爽やかな青春ラブストーリー。そしてそれを維持させた大泉洋の物語も描かれていておもしろい。よくできたストーリーラインだと思うのだが、描写が普通すぎて脚本からのブラッシュアップが足りないという印象を受けた。登場人物全員いい人系の映画は安心して見られるから好きだ。大泉洋の役柄には共感すべき点が多々あり、我が事のように見ていたのだが、自分ならあんな大人の対応なんてできやしないと思った。小松菜奈は漫画が描くキャラクターのような造形美があり、とてもよかった。90点。
勝手にふるえてろ
大九明子、2017。オリジナルではないことは容易に想像がついたのだが、てっきり漫画原作だと思っていた。でも綿矢りさの小説が原作と見終えてから知り、原作を読みたくなった。それくらいにこの映画は自由な展開を見せる。前半は本当にワクワクした。でも中盤以降はただの恋愛モノに成り下がった感が否めなかった。ラストの構成もいまいちピンとこず、自分ならセリフ、キス、音楽ドカンという感じで一気に見せたと思う。松岡茉優はこの決して傑作とは言えない映画を素晴らしい技量でコントロールしていた。序盤のスピード感を落として終盤はドラマを見せようとしているのだが、そのドラマが弱い。登場人物の内面の魅力の無さというかリアリティというか、そういう部分は残念だった。原作モノの映像化という意味ではよくできているのではないかと思った。95点。
新聞記者
藤井道人、2019。こういう社会派映画をやらせたらやっぱアメリカだよなあと痛感した。あと韓国もこの映画よりは上のものが多くある。まず脚本がどうなんだろうという疑問が残る。もしくは演出が悪いのかもしれない。サスペンス調なのにどうも鈍い映画に思えて仕方がないのだ。結局のところ、よくこの内容の映画が撮れたものだ、日本には表現の自由があまりないとはいえ、ここまでの作品ができるのだから素晴らしいではないか、というような文脈くらいしかこの映画を語る視点ってないような気がする。主演はシム・ウンギョンなのだが、映画にはすごく合っていたというか彼女の映画になっていた。しかし日本語にやや無理があるためもっと日本語のうまい女優で見たかった。90点。
マリッジ・ストーリー
ノア・バームバック、2019。主演のふたり、スカーレット・ヨハンソンとアダム・ドライヴァーがもう本当に素晴らしい。長いシーンなんかでは特にふたりの本領が発揮されていて、素晴らしい長回しもあるのだが、カットを割っていてもきっと長回しの一発撮りでやってるんだろうなという緊張感がある。ローラ・ダーンやレイ・リオッタなどの脇もしっかり強固な布陣になっている。そこにコメディな要素がバンバン入ってくるからすごく効き目があった。離婚劇なのだが、ドラマチックな内容とは言い難い。細かいところをリアリスティックに描いていて、小綺麗にまとまっていないところも好感が持てた。もう一度見てみたくなる映画だった。95点。