時をかける少女

大林宣彦、1983。大林宣彦というとモダンな演出で洗練された映像美を見せるイメージがあるのだが、この映画は手作り感覚満載の自主映画的ノリで作られている。次の『廃市』がとても良い映画で、以前の『転校生』も評価が高いから、この映画の評価は微妙なと…

日の名残り

ジェームズ・アイヴォリー、1993。執事のアンソニー・ホプキンスを中心に屋敷の様子を抑制の効いた演出でストイックに描いている。ストイック過ぎて眠くなってしまった。どうも戦争が絡んでいるらしいがそれほど取り扱われず、内容も政治的な部分とかちょっ…

横道世之介

沖田修一、2012。とても良い映画だし、長い映画になるのは必然だと思うのだけれど、あまりにも長すぎる。20分くらいは縮めてほしかったところ。沖田修一作品も撮影の近藤龍人も大好きで、ふたりの良い部分は存分に味わえる映画だったかなと思う。とても不思…

タクシー運転手 約束は海を越えて

チャン・フン、2017。韓国で1980年に起きた光州事件をめぐるジャーナリストとタクシー運転手の事実に基づく物語。カメラはほとんどソン・ガンホを追っており、それゆえに視点はソン・ガンホに固定される。この事件というか当時の情勢がどこまで世に知れ渡っ…

アルカトラズからの脱出

ドン・シーゲル、1979。実話をもとにした脱獄モノ。基本的にはサスペンスやスリラーを基調として描かれている。つまらない映画ではないのだが、エキサイティングだったかと問われると、まずまずとしか言いようがない。ではなにがまずまずエキサイティングな…

終電車

フランソワ・トリュフォー、1981。ドイツ占領下のパリの劇場を舞台にしたドラマ。映画を構成する各要素が素晴らしい。人の動きやカメラワークは絶品であるし、道具の使い方も申し分ない。カトリーヌ・ドヌーヴのエロスは健在で、炸裂していたといってもいい。…

犬神家の一族

市川崑、1976。全然怖くないし、それによるサスペンスフルな緊張感もない。しかしそれを求めても仕方がない。この映画はATGなんかが持っていたアングラ臭とは対照的にからりと晴れた映画になっている。サスペンスや謎解きの緊張感がないまま、これだけ惹きつ…

父と暮せば

黒木和雄、2004。原爆映画の秀作。原作は井上ひさしの戯曲。実際、戯曲っぽい脚本になっているが、カメラは大いに有効利用されており、特に頻発する長回しが緊張感を持続させている。カメラはポジションも移動にも唸らされた。宮沢りえと浅野忠信の恋物語と…

テキサスの五人の仲間

フィルダー・クック、1966。楽しく見られる西部劇コメディ。なんといってもヘンリー・フォンダが素晴らしく、あのヤバい緊張感なんかはヘンリー・フォンダの顔芸ですべて説明してみせていた。そしてヘンリー・フォンダが決して主役をガンガン張るタイプの映…

忘れられた人々

ルイス・ブニュエル、1950。メキシコのストリートキッズを描いたドラマ。ブニュエルというのは単純に劇映画を作るのがうまいってことは『黄金時代』で発見されたことだと思うのだが、この作品でもそのうまさは土台になっている。そこに彼独特の変態性という…

白い暴動

ルビカ・シャー、2019。英国で巻き起こったムーブメント、“ロック・アゲインスト・レイシズム”を追ったドキュメンタリー。僕はこの界隈の時代や人脈の流れをある程度把握しているつもりでいたのだが、こんなことがあったなんてぜんぜん知らなかった。ただ政…

生きてるだけで、愛。

関根光才、2018。本谷有希子の同名小説の映画化。これは本を読んでから見たのだけど、本にはあった瞬発力がなくなっていて、代わりに人生の機微を丁寧に捉えた秀作となっている。映画では鬱とか躁とか睡眠障害が全面にリアルに出ており、その分瞬発力が欠け…

人生の特等席

ロバート・ロレンツ、2012。見逃していたイーストウッド作品だと思ったのだが、イーストウッドは出演だけで監督はちがう人だった。エイミー・アダムス(これもエマ・ワトソンと勘違いした)が主役としてリードしてくれればお話はわかりやすいのだが、アダム…

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q

庵野秀明、摩砂雪、前田真宏、鶴巻和哉、2012。『序』『破』『Q』と立て続けに見てしまったのだが、この置いてきぼり感にひたり、ああエヴァンゲリオンだと思うに至った。14年間の空白で何から何まで変わりすぎてよくわからない。見慣れた光景がないぶん、…

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破

庵野秀明、摩砂雪、鶴巻和哉、2009。前作にあたる『序』は、テレビシリーズの延長線上にあるように見えたのだが、この『破』はテレビシリーズをいい意味でも悪い意味でも飛び抜けている。やたらと熱い映画になっているし、特に碇シンジと綾波レイはテレビで…

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序

庵野秀明、摩砂雪、鶴巻和哉、2007。なんだかサラリとしたきれいなテレビリメイクになっていて驚いた。映画もシリーズになっていて、この「序」は特にオリジナルに忠実であると想像する。これでは商業的意図が丸見えのリメイクにしかなっていない。これはそ…

Ruffn' Tuff/ラフン・タフ ~永遠のリディムの創造者たち~

石井“EC”志津男、2006。レゲエのドキュメンタリーというのはかなりあって、そのどれもが素晴らしいのだが、このドキュメンタリーは他より少し弱い気がした。ただ、時期的にレジェンドたちがまだ健在の人も多く、オールスター夢の共演としては楽しめた。構…

万引き家族

是枝裕和、2018。是枝裕和らしからぬ雰囲気を醸し出していたのが、撮影の近藤龍人と女優の松岡茉優だろう。近藤の作る画は、しっかりした構図から大胆にカメラの反転させるパターンなんて『曇天生活』から変わらないし、家の中はもちろん万引のシーンやロケ…

巴里の屋根の下

ルネ・クレール、1930。クレールのトーキー初作。見せない演出、聞かせない演出が随所に効果を発揮していて素晴らしい。トーキーなのに台詞をドア越しにして隠したり、音楽が遮ったり、汽車の音が遮る。見せない演出は決闘のシーンが良かった。そしてクレー…

女神の見えざる手

ジョン・マッデン、2016。ちょっと台詞の多い映画で、字幕をほとんど読めなかったのだが、それでもジョン・マッデンが素晴らしい仕事をしているのはわかった。やたらとシックな色合いのなかでの人物の動きが素晴らしく、また絶妙なカッティングも炸裂してい…

カメラを止めるな!

上田慎一郎、2017。ワンカットでゾンビ・ドラマを生放送で作る、というテレビ企画を題材にしたゾンビ・コメディ映画。ロケーションが素晴らしく、まるで『霧島』のように魅力的だった。こういう話題にもなった映画は鮮度があるうちに見るのがやはりよくって…

木と市長と文化会館 または七つの偶然

エリック・ロメール、1992。ロメールにしては珍しく恋愛よりも政治的な映画といえるが、それでも演者はロメール映画らしく喋りまくっている。でも喧々諤々というよりただ喋りまくる。フィクションとドキュメンタリーのあいだをする抜けるような作りになって…

デッドマン

ジム・ジャームッシュ、1995。この映画は古き良き西部劇に影響を受けたというよりも、古き良きサイレント映画に影響を受けているように見える。まずロビー・ミューラーの仕事っぷりが凄まじいのだが、被写界深度をものすごく狭くして撮影する部分が多々ある…

女っ気なし

ギヨーム・ブラック、2011。バカンス映画ということもあり、エリック・ロメールやジャック・ロジエを連想した。特にジャック・ロジエは、ギョーム・ブラックに多大なる影響を与えていると思う。ロジエあまり見ていないけれど。フランスのうらびれた港町での…

キッスで殺せ

ロバート・アルドリッチ、1955。戦後すぐに連載された私立探偵マイク・ハマーもののひとつ。この映画はお話の展開やテンポの良さも際立っているのだが、なにがすごいって、初っ端から怒涛のテンションで押し切ってしまうことだ。ゴツゴツしたドラマになりそ…

駅馬車

ジョン・フォード、1939。美しい景色と娯楽アクションが奏でる最良の映画。見ているだけで後に与えた影響がわかるくらいに、スタンダードな映画になっている。コミカルなタッチで駅馬車の面々を映し出しながら物語は進んでいく。しかしこの空間演出力はすさ…

幕末太陽傳

川島雄三、1957。魅せようとするには、総じてカメラが遠くにありすぎるショットが多いのだが、実際、そのカメラの距離によって魅力が減じている部分もあると思うのだが、フランキー堺だけはサイズなんぞお構いなしに華麗な舞を披露している。小沢昭一とフラ…

アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル

クレイグ・ギレスピー、2017。トーニャ・ハーディングの半生を描いた映画なのだが、アメリカ女子初のトリプルアクセル成功とか、ナンシー・ケリガン襲撃事件にはそれほど興味を持っているようには見えない。それよりはフギュアがアメリカで担っているものと…

ギャンブラー

ロバート・アルトマン、1971。レナード・コーエンが流れ、ヴィルモス・スィグモンドの暗い映像が渋みを増加し、物語は語られる。だがその物語からしてアルトマンらしく、明快に物が語られることはない。そもそも物語がほとんど語られていないといってもいい…

七人の無頼漢

バッド・ベティカー、1956。事件に巻き込まれて妻を殺された元保安官が復讐を企てる映画。アンドレ・バザンが絶賛したことでも有名な作品で、西部劇の隠れた傑作といえるだろう。映画は78分と短いのだが、そのなかに素晴らしい脚本と、素晴らしいカメラワー…